不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

401 「インプット」

妹の子供がまだ3歳位の時の話です。一応私はおじさんになる訳ですからたまには点数でも稼いでおかねばと思い何か買ってあげることにしました。3歳の子供の事ですからお菓子か精々ヒーローもののグッズか何かで済むだろうと思っていたら予想に反してピストルが欲しいと言います。

元気な男の子でしたからそれもわからなくもないのでプレゼントするのですが、3歳児のオモチャにしては少しリアル過ぎた感のあるピストルをとても喜んでくれました。それからしばらくして妹から電話があり、何とその子が駄菓子屋を襲撃してチョコのお菓子を強奪したと言うのです。
               innputto-s
妹が駄菓子屋にチョコの代金を支払いに行った時にその状況を聞くとオモチャのピストルを手にした3歳児が「おとなしくチョコをわたせば命だけは助けてやる」と言って店主のおばさんを脅したらしいのです。馴染みの駄菓子屋の店主も適当に付き合って三歳児の襲撃を成立させてくれたらしいのですが、勿論妹は子供を叱ります。

何故か彼の中では欲しいものは買うのではなく強奪するものだとインプットされていたようです。

お知らせ。突然ですが、この度「はてなぶろぐ」での投稿を終了させて頂くことになりました。永きにわたって応援していただいた皆様には心より感謝申し上げます。「不思議な話(ニーマンのピク詰め)」は引き続き「ライブドアブログhttp://blog.livedoor.jp/korogi378/にて続行しますのでよろしければそちらを覗頂ければ幸いです。ありがとうございました。  コオロギ

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400 「先端」

 

子供の頃に見たテレビ番組で、年配の漫才コンビのあるネタの中に出てきた話が未だに忘れられないのです。それは大きな時計の話なのですが、およそこんな話です。日本列島の中心に大きな時計を作ります。

その大きさは長針が九州まで届く超巨大な時計で長針が半周すれば長針の先端は北海道に届くので、九州の人がその長針の先端に乗れば30分で北海道まで行けると言うものでした。

                  先端-s

その発想が衝撃的過ぎてどんな落ちだったのかは覚えていませんが、それなら秒針に乗れば30秒で日本列島の端から端まで移動出来るという事に興奮してしまうのですが、その時の秒針の先端のスピードを逆に普通サイズの時計の秒針の先端に人間と同じ比率の細菌か何かが居たとしたらその細菌は同じようにそのスピードを感じるのだろうかという事が気になってしょうがありませんでした。

今でも宇宙の彼方まで伸びた秒針の先端が光のスピードを超えてしまうとどのように見えるのかを想像してワクワクすることがあります。

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399 「目覚し時計」

物によっては本来の使い方でなくても十分に目的を果たす事ができるということを知ったのは新婚間もない頃です。就寝の際には妻がベッドで私は畳の上に布団を敷いて寝ていたのですが目覚まし時計は私の布団が敷かれた壁際のタンスの上に置いていました。

タンスと言っても引出しが3~4段の背の低いオシャレなチェストなので手を伸ばせば良い感じで目覚まし時計に手が届きました。新婚ということで人並みに夢も希望もありますから目覚まし時計ひとつにもこだわりがあって、当時の目覚まし時計はアンティークなテイストを残しつつオシャレでなおかつカワイイデザインの物ということで大きな円形の文字盤の上の方に大きなアナログなベルが2つ付いた結構な存在感のある目覚まし時計でした。

                  目覚し時計-s

朝、目覚ましのベルの音を止めるのは私の役目だったのですが、その日は「チーン」という軽やかな音で目が覚めます。と同時に額の真中に激痛が走ります。何事が起ったのかと寝ぼけ眼で辺りを確認してみれば両手でお腹を抱えながら声も出せないくらいに笑い転げる妻が枕元に立っています。

私はとても驚きましたが枕の横に転がった目覚まし時計を見て状況は飲み込めました。たまたま目覚ましより早く目を覚ました妻が気を利かせて目覚ましのスイッチを切ろうとして持ち上げた目覚し時計を誤って私の頭上に落っことしたのです。

『なるほど、確かに目覚し時計だな』まだ完全に目覚め切っていない意識の中でそんなことを思ったのを覚えています。

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398 「依頼」

絵を描く時にはそこに何かしらの「対象」があるわけですが、それが「物」であれ「人物」であれ「風景」であれ、はたまた形を持たない「抽象的な観念」であってもそれを描く際にはいろんな角度から隅々まで注意深く観察する事になります。

更に対象に迫ろうとすれば視覚だけではなく嗅覚や触覚といった持てる感覚の全てを総動員することになるのですが、何かの拍子に五感以外の感覚まで起動してしまう事があります。それは想像とか妄想の類と一緒くたにされてしまうのであまり公にはしませんが、その感覚が機能すると対象の意識に触れる事ができます。

正確には対象が経験した「記憶」と言った方が正しいのかも知れません。対象を理解する上ではとても都合が良いので制作中はそれを活用させてもらっているのですが、たまにそれだけではすまない場合もあります。

                  依頼ーs

ある時、あるご婦人から「肖像画」の注文を受けます。肖像画はめんどうくさいので大概は断るのですが、愛するご主人の遺影だということだったので一肌脱ぐ事にしました。制作するに当たってはお預かりした写真の情報が全てですので嫌でも一日数時間はご主人の写真と向かい合うことになります。

8号位の小さな肖像画でしたが完成までの約2週間の間にご主人のいろんな事がわかりました。制作中に無性にレンコンの天ぷらが食べたくなったのはご主人が蓮根の天ぷらが大好物だったからですが、ご主人は自分で蓮根の栽培をしていたようなのです。蓮根畑の中を長靴姿のご主人が嬉しそうに歩く映像が見えました。

肖像画のコスチュームを濃いブルーのスーツにしたのはご主人がその色のスーツをとても気に入っていたからです。完成した肖像画をお渡しする時にそのことを奥さんに確認したのですがそれに間違いはありませんでした。

実はあえてそのことを確認した本当の目的は奥さんに対する感謝の気持ちをどうしても伝えてほしいとご主人に頼まれたからなのです。

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397 「螺旋」

Eさんとは昔からの知り合いなので、彼の気まじめさや誠実さは私が一番良く知っています。彼はほとんど冗談を言いませんし、まず嘘はつかない人です。というか性格的に嘘はつけない人です。そんなEさんが一度だけ私に妙な話を聞かせてくれた事があります。

彼はそれがあまりにも非現実的な事なので今まで誰にもその話はしなかったそうです。何故そんな話を私にしたのかはわかりませんが、おそらく私ならその話をまともに聞いてくれると思ったのでしょう。Eさんから聞いた話はこんな話です。

Eさんが小学生の高学年の頃、友達数人と近所の空き地で遊んでいたそうです。その空き地の周りは草むらになっており、Eさん達はたまたま草むらの側で遊びに興じていました。それは突然草むらから現れたそうです。幅が30センチ位で直径が15センチ位のコイル状の黒い物が草むらから転がり出てきてEさんの足下で止まります。

                      螺旋-s

Eさんは最初それを『バネ』だと思ったそうですが、小指ほどの太さの渦巻きは金属ではなく生き物のそれだったと言います。何故それを生き物だと思ったかと言うと、蛇のような光沢のそれをむやみに踏みつけたりすれば噛みつかれるのではなかろうかと言う恐怖心が湧いたからだと言います。

外見上は頭やシッポは見当たらなかったと言いますが、その渦巻きが草むらから出てきた時よりも速いスピードで転がりながら草むらに戻って行くのを見て、それは間違いなく意思を持った生き物だと確信したそうです。草むらの中でしばらく「ガサガサ」と音が聞こえたと言いますから、風や何かでたまたま転がったものではないようです。

私はその話を聞きながら『螺旋』という形状に逆にリアリティーを感じました。作り話ならわざわざ螺旋状などにしなくてももっと気のきいた形体は幾らでもあるのです。それがどんなに意味不明な説明不可能な物でもEさんが何かを見てしまったのは事実のようです。

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396 「ヒーロー」

若い頃にビルの壁面に絵を描くという仕事をしたことがあります。枡目で区切られたビルの壁面に枡目で分割された原画通りにスプレーガンで彩色して行くだけなのですが、建設中の7~8階建てのビルの壁面に組まれた足場の上での作業は結構スリルがありました。

足場の外側は転落防止用のグリーンの網で覆われていましたので高さに対する恐怖感は比較的軽減されていたのですが、怖かったのは他社の作業員とすれ違う時で、ウッカリぶつかったりするとビルの壁面と足場の隙間に落っこちそうになるのです。

最上階から順に作業を進め何とか転落する事もなくほとんど安全圏の下から2段目の足場で作業をしていた時のことです。突然上の方から「バン、ガン、ドン、パコッ」と言う音が聞こえてきたのです。その音が段々大きくなってきている所を見ると何かが落ちてきているということなので私は反射的に身を縮めます。

                            ヒーロー-s

「ガラガラ、ドンッ」と言う大きな音と共に私の真横に落ちてきたのは何と人間でした。ビックリする私の横で足場に腰掛けた状態でビルの壁の方を向き、背筋を伸ばしたまま両手をキレイニ太ももの上に揃えた男性のその姿勢が余りにも自然だったのでもしかしたらこの人はずっとそこにいた人なのではなかろうかと思ったほどです。

話を聞くと足場の7段で作業中、バランスを崩して足場とビルの隙間に落ちたそうです。運良く途中の足場に何度もぶつかることで落下スピードが軽減され2段目で止まったのだそうです。その人は何事もなかったように作業に戻りましたが無事だったのは奇跡でした。

その日の現場は落下した作業員の噂で持ち切りで、その後その落下男とは3~4回顔を合せましたが作業が終わる頃には完全にヒーローとなっていました。ちなみに「パコッ」という音はヘルメットがビルの壁面に当たる音です。

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395 「直線道路」

その道路は一級河川と並行したほぼ直線の道路です。田園の中を一直線に貫くその途中に少し上り坂になった個所があるのですがその場所だけ道路の脇が広葉樹の林になっています。その日は夜中の11時頃にその道路を走行していて、いつものようにその坂に差し掛かるのですが、フト見ると坂の途中の歩道に人が倒れているのです。

薄いグリーンの作業服を着た中年の男性のようでした。男性から10メートルほど離れた所に車を停車して街灯の明かりを頼りにバックミラーで男性の様子をしばらくうかがっていたのですが男性はうつ伏せに倒れたまま動かないのでさすがにマズイと思い車から降りて男性の所に駆け寄ります。

作業服の男性はうつ伏せの状態で顔を林の方に向けたまま右手は体にピッタリ付け左腕は歩道の柵の向こう側、つまり林の方にありました。林と歩道には高さの差があるので腕の肩から先は柵の向こう側でだらりとぶら下がっていると思われました。

                  直線道路-s

恐る恐る顔を覗き込むと男性の目は開かれたままだったので一瞬ギョッとしましたが勇気を出して「大丈夫ですか?」と声をかけます。人は本当に驚くと声などは出ないということをその時知るのですが、私が声をかけるのとほとんど同時に「とれたぁー」と叫びながらその男性が飛び起きたのです。

ビックリして動けない直立不動の私に目もくれず、その男性は携帯電話を耳にあてがい電話の相手と何やら盛り上がりながら片方の手で体の埃をはらいつつ歩いて行きました。どうやら携帯で通話中に誤って林の中に携帯を落としてしまったようです。それを拾おうとしてやむなくうつ伏せの体勢をとっていただけのようでした。

とりあえずは何事もなかった事に安心はしたのですが、腑に落ちないのは、男性は完全に私を無視していたと言う事と近くに男性の車が見当たらなかったということです。その直線道路の途中にこれといった建物はなく、いったいその男性はどこからどこまで歩くつもりだったのかが不思議でなりません。

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