不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

093 「湧き水」

 福岡で造形の仕事をしている頃の話です。佐賀に2日ほど出張することになり、営業のKさんと一緒に現地に向かうのですが、Kさんは佐賀県の出身ということもあり美味しい料理のお店や名所などを案内してくれました。


仕事の現場を確認した後、近くに「霊験あらたかな湧き水」があるはずなのでどうしても私をそこに連れて行きたいと言います。別に嫌ではありませんからKさんの後についていくのですが、結構歩くのです。

どうもKさんの記憶も確かではないようで、周りをキョロキョロしながらああでもないこうでもないと言いながらドンドン郊外へ連れて行かれます。15分ほど歩いたでしょうか、突然Kさんが声を張り上げます。


「ありました。ここです、ここです。どうぞ飲んでみて下さい。軟水でミネラルもたっぷりですから」

立派な石垣の間から塩化ビニールのパイプが突き出ており、チョロチョロではありましたが確かに水が流れ出ていました。そのパイプの位置が異常に低いのが気になりましたが、這いつくばるようにして口を近づけますと温泉のように暖かいのです。

確かに口に含んだ感じは柔らかで飲みやすい感じでした。歩き疲れて喉も渇いていましたので相当な量を飲んでいると、15メートルほど先の草むらを覗き込んでいたKさんが再び声を張り上げました。

「すみません、こっちでした。間違いありません。こっちです」

わきみず-s



何を言っているのかと思いながらそこを見ると小さな祠に覆われた有り難そうな石の割れ目からいかにも霊験あらたかそうな水が懇々と沸き出ているではありませんか。

恐る恐る今まで水を飲んでいた場所を振りかえって見ると、高い石垣の上に立派な民家が見えます。そうです、今まで思いきり飲んでいたのは民家の排水口から出る排水だったのです。

不思議なものでそれまで何でもなかったオナカの具合が急に悪化するのですが、本当のことを言わないことも優しさだったりすると思うのですがねぇ。

コオロギのアトリエ