不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

115 「勘」

夜中に近道をしようと山越えのコースを車で走っていたときの話です。峠に出るまでの道は車一台がやっと通れる位の狭い道で、しかも道の右側は深い森が道のギリギリまで迫って崖のようになっているので何とも不気味なのですが、近道をするためのリスクだと思えば我慢も出来ます。

今にも何かが森から飛び出してきそうなその道では実際に狸や野うさぎなどを見かけたことがあるのですがその日はまったく遭遇しません。キツネやイタチでも見かけると逆に安心したりするのですが、ザワザワと森の木立を揺らす風が吹いているだけでいつにも増して不気味でした。


ほぼ直線の道にさしかかるとハイビームのライトが照らす先に急激に右にカーブした場所が見えます。これと言った理由もないのですが妙にその場所が気になります。不思議なことに『あのカーブを曲がった所に何かがいる』とすでに確信しているのです。

それが何者かがわかりませんから返って怖いのですが、とりあえずスピードを緩めてそのカーブにさしかかります。恐る恐る曲がってみるのですが別に何もいません。その時点で車は停止していたのですが、自分の勘違いだったことに苦笑しながら再びアクセルを踏もうとした正にその時です。

真っ白で大きなものが森の崖を滑り降りてきて、というよりは滑り落ちて来てフロントガラスに激突したのです。人は本当に驚いたときには悲鳴は上げません。『ボッ』に近い声というか音を出すだけです。

勘-s


体勢を立て直して崖とは反対の谷に下りていく2匹の白い動物をただ見守るだけしか出来なかったのですが、おそらくヤギの親子です。ライトに照らされたそれを見た時、一瞬「鹿」とも思いましたが、あの体形で白い動物といえばヤギしかいません。

『変に勘が働きさえしなければヤギには遭遇せずにすんだのに』と再び苦笑いしながら車を発進させてフト思ったのですが、野生のヤギというのは居るのでしょうか、大きさもヤギにしては少し大き過ぎる気もしました。ひょっとしたら本当は白い鹿の親子だったのかも知れません。

コオロギのアトリエ