118 「しめ縄」

若い頃、正月の４日か５日に例の従弟と阿蘇山までドライブしたときの話です。阿蘇山の火口を見ることよりも購入したばかり車を走らせたいばかりのドライブですから、行きも帰りも話題は車のことばかりです。すれ違う車のスタイルに興味を持ったり前を走る車の年式が気になったりと話題は尽きませんでした。

いい気分で車を走らせていると助手席の従弟が突然「後ろの車、チョッと変じゃないか」と言うのでルームミラーで確認すると、海老茶色の軽自動車に老夫婦が乗っているだけで別段変わったところはありません。阿蘇山の駐車場で見かけたヒョウ柄のスポーツカーの方がよほど変でした。

どこが変なのかと問いただすとフロントグリルの『しめ縄』（今ではまず見かけることはありませんが、当時は正月になるとほとんどの車のフロントグリルの所に『しめ縄』が飾ってありました）だと言うので、もう一度確認して驚きました。

よく見るとそれはしめ縄ではないのです。どう見ても『わら人形』なのです。しめ縄の形体が崩れてそのように見えるのではなく、正真正銘のわら人形でした。正月早々縁起でもないですし、いくら考えても意味がわかりませんからその車から逃げるようにして帰ったのを覚えています。

今でも正月のしめ縄を見るとそのわら人形を思い出してしまいす。

コオロギのアトリエ