121 「自動販売機」
今でもよく見かける当り付きの自動販売機が出たての頃のお話です。窓拭きのアルバイトの休憩タイムにジャンケンで負け、4人分のジュースを買って来ることになりました。
販売機は数台並んでいたのですがその中の一台に当り付きの販売機があり、ものめずらしさから試してみました。ジュースのボタンを押すと光のルーレットが回り、徐々に回転のスピードがゆるやかになって来るとサイバーなメロディーと共に販売機の全てボタンが光ります。
当たったのです。これはラッキーだと思いながらもう一度ボタンを押すとこれまた当たりです。ドキドキしながらボタンを押すとまたまた当たりです。心の中は『ウヒョ~』状態でした。結局9回連続で当たってしまい、計10本のジュースをニヤニヤしながら両手に抱えているときに『ハッ』と気づきます。
その自動販売機は1000円札も使える新型の販売機だったということを忘れていたのです。
当たりだとばかり思っていたのは当りではなく普通に『まだ買えますよ』のことでした。
「そんなに飲めないですよ~」
10本のジュースを抱えて戻った私を優しく迎えてくれたN社長の情けない表情は今でも忘れません。
コオロギのアトリエ