不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

146 「ハサミ」

東京時代のアルバイトの中で一番面白かったのが『窓拭き』です。仕事現場となるビルは東京中いたる所にあるわけですから、それは々いろんな面白い体験をさせていただきました。

しかし窓拭き自体は非常に危険な仕事で、屋上に窓拭き用のゴンドラが設置されているビルはよいのですが10階建て前後のビルにはゴンドラなど無く、ロープ一本でビルの外壁を下りていくことになりますから常に『死』と隣りあわせではあります。

今はどうしているのか知りませんが私達の頃はそれが普通で、今考えるとよくあんな危険なことが出来たものだと思います。その窓拭きのバイトで不思議なことといえばこんなことがありました。

まだ新人の頃、先輩に「必ずハサミは持っておけ」と言われたことがあります。何故窓拭きにハサミが必要なのか意味がわかりませんし実際に仕事でハサミを試用することなどありませんでしたから、てっきり冗談だと思い、そのことは無視していました。

しかし先輩の胸ポケットにはいつも携帯用の小さなハサミが常備されているのです。冗談にしては念が入りすぎているのでしばらくはそのことが不思議でしょうがありませんでした。その内仕事にも慣れハサミのことなどはスッカリ忘れた頃でした。

          hasami-s

その日もいつものようにロープ一本で外壁を下りながら窓ガラスを拭いていました。ロープでビルの外壁を下りるときにはブランコのような椅子をロープに特殊な結び方で固定し、作業しながらゆっくり下りていけるようになっています。そのロープの結び目は目の位置かそれより少し上になるのですが、その日に限ってその結び目に髪の毛が巻き込んでしまったのです。

気がついた時には考えられないくらいの量の髪の毛が巻き込まれていて、ついには全く身動きが出来なくなってしまいます。それでも体はジワジワト下がっていきますから自分の体重を髪の毛で支えている状態になってしまいました。激痛の中、必死で窓の内側のオフィスで仕事をしている女子社員に助けを求めます。

「すみませ~ん、ハサミを…ハサミを~~」

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