150 「タマムシ」
玉虫を最後に見たのは5年ほど前です。今まで生きてきた中で玉虫を見たのは精々10回くらいですので、私の場合、生まれて初めて玉虫を見た7歳のときから計算すると玉虫を見る確立は4~5年に一度くらいになります。
それにしても玉虫のあの美しさは尋常ではありません。その美しさゆえに玉虫を見るたびに何ともいえない感覚に囚われるのですが、それを言葉にするとしたら「この世とあの世の境界線に存在している神聖な何かに触れるような…」そんな感じです。
その玉虫に2度目に遭遇したのは11歳の夏休みでした。近くの神社の森で3~4人の友達とセミ取りをしているとき、友達のひとりが草むらの中にいた玉虫を偶然に見つけたのです。友達は「変な虫がいた…」と言いながら親指と人差し指でそれをつまんで私に見せてくれるのですが、何か様子がおかしいのです。
形は間違いなく玉虫なのですが腹側(足の生えている側)が赤いのです。玉虫の腹側は普通全体的にグリーンがベースになっていて所々に赤い色が見られるのですが、それは全体が紫に近い赤色でした。さらに驚いたのは虫の背中を見たときです。何と全体が金色だったのです。ピカピカに磨き上げられた黄金のように冷たく輝いていたのです。
その時は「玉虫にも色の違うのがいるのか…」くらいにしか思いませんから、それほど大げさには驚きませんでしたがそれでも結構な衝撃でした。まるで高価な金細工の工芸品のような玉虫に見とれていると、いつもは滅多にそんなことを言わない友達のK君がこんなことを言ったのです。
「これはきっと神様の使いだから逃がしたほうがいいよ」
何故かみんなその言葉に素直に従うのですが、今思えば学校の理科の先生にでも見せておけば良かったと後悔しています。
勿論そんな色の玉虫が今までに発見されたという報告はありませんから、もしかしたら新種という事で発見者の友達の名前が付けられていたかも知れないのです。金色という特徴も入りますから「〇〇黄金玉虫」か「〇〇金玉虫」です。
…ちょっとガッカリです。
コオロギのアトリエ