不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

160 「奇跡(後)」

すでに海水は車のマフラーまで来ていましたからエンジンがかかるか心配でしたが奇跡的にエンジンはかかりました。しかしいくらアクセルを踏んでも前に進まないのです。その時、後輪は両方とも浮いていたと思われます。

それでもあきらめる訳にもいきませんから必死にアクセルを踏み続けるとタイヤの回転がスクリュウの役目をしたのでしょう、少しだけ前進します。左右に車体を振りながらドリフト状態で頑張って前に進んでいると、何かの拍子にタイヤがコンクリートを捉え何とか走行できるようになります。

とは言っても防波堤のほとんどが水没していてタイヤの半分くらいは水中です。車のヘッドライトが照らす範囲は海水しか見えず、まるで海の中を走っているようなのです。実際に海の中を走っていたのですが、あの時ばかりはもうダメかと思いました。

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真っ暗な海の中をヘッドライトの灯りだけを頼りに防波堤であろう場所を想定して前進するしかないのですが、恐怖でパニックになりそうになります。ところが不思議なことにその切羽詰った状況の中にあって必死に考えていたのは『ウグイス』と『メジロ』の色のことなのです。

『ウグイス色と言っているのは実はメジロのグリーンのことで実際のウグイスの色はもっと渋い茶色だ…』

そんなことを真剣に考えていたのです。おそらく恐怖で思考が混乱し、とんでもない行動をとってしまうのを防ぐ為に脳が自動的にそのような状態にしてくれたものと思われます。

おかげで防波堤の半分まで来た頃には海水も引いて防波堤も見えてきたので何とかなりましたが、しばらくは恐怖で体の震えが止まりませんでした。

あれは今でも津波だと思っていますが、その日に津波の情報が一切なかったところをみると、もしかすると近海を通った大型タンカーの起こした波が大潮と相まってあのような現象を起こしたのかも知れません。

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