不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

169 「親指」

初対面の新聞記者の女性の方と話をしていたときの出来事です。話の流れから『手相』の話になり、手相を見せて欲しいと言うので私は普通に左手を開いて記者の方に見せようとしたのですが何と手が開けないのです。

何故か指が『ツッタ』状態なのです。正確には親指だけが内側に折れ曲がったままで、左手で『4』を表現している状態になってしまっているのです。原因は相手が美人のお姉さんだったからではないとは思いますが、初めての体験に戸惑いながらもとりあえず右手で左手の親指をつまんで通常の位置に戻そうとするのですが手を離すと親指は元の位置に戻ってしまいます。

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どうして良いのかわからないまま親指の折れ曲がった手のひらをそれぞれの思いでしばらく覗き込んでいましたが、彼女の方が先に口を開きます。

「あのぉー・・・親指を曲げられていると…手相、よく見えませんね・・・」

『手がツッタ』などとは恥ずかしくて言えませんから親指を右手でつまんで無理やり開いた状態を維持するのですが左手が痛みに耐え切れずプルプル震えるのです。


「だ、大丈夫ですか?あれでしたら右手をみましょうか?」

女性の優しさはあきらかに愛情ではなく同情のそれでした。

「いえ、男は左手ですから…」

そうは言ったものの、その後の展開がまったく予測できませんから内心はパニック状態でした。

『・・・一生涯このままだったらどうしよう。手袋もはめられないし、茶碗も上手く持てないし…』そんなことばかり考えていたので彼女の手相の説明は何にも頭に入りませんでした。

その後、別の話になり時間が経つにつれ自然と左手の親指は通常に戻ったのですが、会話の途中でさり気なく美人のお姉さんに見えるように左手を開いたり握ったりしてノーマルであることをアピールするものの、最後まで彼女のまなざしから同情の色が消えることはありませんでした。

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