174「五寸釘」
30代の頃、遊園地内に造形物を造る仕事をしているときのことです。何故あんな無謀なことをしたのか今考えても不思議なのですが、組み立て式の足場の上から飛び降りたことがあります。
おそらく一緒に仕事をしていた若者達に良い所を見せたかったのだと思いますが、1,8メートル位の中途半端な高さでしたので賞賛に値する程の効果は得られませんでした。しかも飛び降りた所にたまたま落ちていた、釘の出た木の板を思い切り踏んでしまいます。
その釘がよりによって5寸釘(15cm位)で何と右足の甲を貫通してしまったのです。作業靴のちょうど紐の結び目の所から4~5センチの釘の尖った方が出ているのを見たときにはさすがにゾッとしました。反射的に釘は抜いたのですが、ビックリしたのはそれを見ていた若者達です。
「い、今、か、か、貫通しましたよね」
内心は不安でしょうがなかったのですが不思議とそれ程痛みを感じなかったのと、若者の手前ということもありその場は平静を装います。仕事が終わり傷口を確認すると確かに足の裏と足の甲に穴が開いていましたが出血はほとんどありませんでした。
念のために傷薬を塗りカナヅチで足の裏を叩く(昔から釘を踏んだらカナヅチで傷口を叩くと良いという迷信があります)のですがその晩は高熱が出ます。破傷風か何かを発病して、もうだめなのかと思いましたが、次の朝にはスッカリ熱も引いて普通に仕事が出来たのです。
おかげでその日からその現場が終了するまでの間『5寸釘が貫通しても不死身な男』として若者達から一目置かれる事となりました。メデタシ、メデタシ。
コオロギのアトリエ