176 「イッシー」

新婚当時、鹿児島県の池田湖までドライブしたときの話です。その湖には『イッシー』という体長１０～２０メートルのネス湖のネッシーのような怪物が生息しているとのことでした。料金を払えば地元の業者の人がモーターボートで最近イッシーが撮影されたというポイントまで連れて行ってくれるというので早速お願いします。

２週間前にイッシーが撮影されたという湖の真ん中で、エンジンを停めた小さなボートの中から当たりを見渡すだけなのですが、イッシーの存在を本当に信じていたら絶対にこんなことは出来ないだろうと思いました。何故なら、たとえそれが１０数メートルの巨大ウナギだとしても、もしボートの側にそんなのが出てきたとしたらこんな小さなボートではすぐにひっくり返ってしまうからです。

不気味なほど静まり返った湖をしばらく見ていたのですが、なぜか業者の人が仕切りとボートの周りを気にするのです。最初は観光客用のサービスでそのような演技をしてくれているのかと思ったのですが、その取り乱しようは演技を超えていて、その尋常ではない視線はボートの真下に向けられています。


　　　　　　　　　　　　

何と、いつの間にかボートの下の湖の色が黒に近い深い緑色に変わっているのです。同時にボートが少し浮き上がったような気がしたのですが、その時の恐怖といったらありませんでした。未だにその時の恐怖を上回る恐怖に遭遇したことはありません。

業者の人もボートの下の何かを感じていたらしく、慌ててエンジンをかけ猛スピードで岸まで戻るのですが、岸に着くまで誰も一言も喋りませんでした。あの湖には得体の知れない何か巨大なものが居るのは間違いないようです。

コオロギのアトリエ