181 「言い間違い」
造形作家のRさんの工房で皆と一緒に昼食をとっていたときの話です。当時工房に出入りしていた通称『ベティー』という素敵な女性をRさんはとても気に入っていて、事あるごとに言葉のチョッカイを出していたのですが、残念なことにRさんはとても『言い間違い』が多い人なのです。
その日もベティーがたまたまご飯をこぼすのを見てすかさずツッコミを入れます。
「ベティー!ご飯を粗末にすると……お百姓さんの目がつぶれるよ!」
一瞬その場に居た5~6人全員が固まるのですが次の瞬間には食堂は爆笑の渦に包まれます。ご飯をこぼすと自分ではなくお百姓さんが失明するという理不尽さが可笑しくてひとしきり笑ったのですが、考えてみると『ご飯を粗末にすると目がつぶれる』と言うよりこっちの方が深いのではなかろうかと思えてきました。
自分がこぼした数粒のご飯粒が原因で他人が傷つくのです。失明した農家の人はお米を作れなくなってしまい、そのせいで何百人もの一般人がお米の供給を受けられなくなり、結果的にご飯粒をこぼした本人もご飯が食べられなくなってしまいます。
『お米の一粒まで大切に食べなければ・・・』という表面的な部分ではなく、自分とは無縁な人が傷つくという事に対する良心の呵責というか、心とか魂の領域に働きかけてくるのです。まるで『心』に直接ナイフを突きつけられたような何とも言えない恐怖すら感じてしまいます。
そういった意味では「ご飯を粗末にするとお百姓さんの目がつぶれる」は正解なのかもしれません。
コオロギのアトリエ