186 「LOVE」
小学4年生の夏休みも残りわずかになったある日のことです。自由研究を提出しなければならないのに怠けて何もしていませんでした。
途方に暮れている私を見かねて父親が手伝ってくれると言うのですがあまり嬉しくはありませんでした。というのは子供心に父親の感性が特殊なことは何となく気づいていて、出来れば係わりたくなかったからなのです。
父親は裏庭の地面の上に何処から持ってきたのかガラスの板を置き、そのガラス板の上に何か白い粉を撒き始めます。その白い粉はガラスの上でハート形の縁取りに成形され、その中にやはり白い粉で何やら横文字が書かれました。
最初は何をしているのか不思議でしょうがありませんでしたが数十分後に理解することになります。白い粉に蟻が群がっていたのです。それは砂糖でした。とは言うものの、それが自由研究とどう結びつくのかはその時点ではまだわかりませんでした。
その内にガラス板の白い砂糖の形は蟻の大群で真っ黒になります。と、その時です。父親は同じサイズのもう一枚のガラス板を蟻の群がったガラス板に重ねたのです。動物愛護の方には申し訳ないのですが、あっと言う間にガラス板にサンドイッチにされた蟻のハートが完成です。
当時の私には横文字の意味は理解できませんでしたが、おそらくハートの中の横文字は『LOVE』と書かれていたと思います。蟻を大量虐殺しておいてLOVEはないだろうと思うのですが…
コオロギのアトリエ