187 「油」
東京時代の初めてのバイトは新宿の高層ビルの最上階にあるレストランでの皿洗いでした。夕方の5時から10時まででしたが豪華な夕食付きということもあって結構気に入ったバイトでした。
仕事にも慣れてきたある日のこと、最後に厨房の床をデッキブラシで掃除するのも私の仕事だったのですが、厨房の中央にあるステンレスのテーブルの上に置かれた寸胴鍋をあやまってひっくり返してしまいました。
その寸胴鍋には高温の油が大量入っており、運悪くそれを頭から浴びてしまったのです。厨房は大騒ぎになり5~6人のコックさんによってたかって水を浴びせられ、あっという間にビショビショになるのですが何か様子がおかしいのです。
まったく熱くないのです。実はそれは油ではなく『醤油』だったのです。その日に限って油と醤油の寸胴鍋の位置が逆だったのです。1年近くそのバイトをしましたが、不思議なことに醤油と油の寸胴鍋の位置が変わっっていたのは後にも先にもその日の一日だけでした。
コオロギのアトリエ