196 「後部座席」
30代の頃の話です。仕事で帰宅が夜の10時頃になり、途中コンビ二でチョッとした買い物をして、コンビニの駐車場を出てから2つ目の信号で止まったときにサイドブレーキを引きながら何の気なしに目をやった後部座席に何やら黒いかたまりを発見します。
それが人の形をしていることに気づいた時には心臓が止まるほど驚き、大人の男としては恥ずかしいくらいの悲鳴を上げていました。
最初はそれを霊的なものだと思ったのですが、後部座席の小柄な御老人が私の悲鳴に驚いてパニックになったのを見てとりあえずは生身の人間であることを確認しました。
御老人は「キミアキ…キミアキ…」と『キミアキ』を連呼し続けます。
おそらくコンビニの駐車場で間違えて乗り込んだのだと思いすぐにコンビニに引き返すと、案の定コンビニの駐車場では20代前半のキミアキ君と思われる青年が「じいちゃーん…じいちゃーん…」と声を張り上げているところでした。
御老人は何事もなかったかのように青年の車に乗り込むのですが、その車は私の車と色も違えば車種も大きさも全く違うのです。どうしたらこれを間違えるのか不思議でしょうがありませんでした。
もうひとつ不思議だったのは、どうやって車に乗り込んだのかということです。車にはちゃんと鍵がかかっていたのです。
コオロギのアトリエ