200 「蟲」
夜釣りにハマッテいた頃に良い型のスズキが釣れるポイントを見つけ、よく通っていたときの話です。そのポイントというのは一級河川が海と交わる少し手前の葦のような背の高い植物が鬱そうと茂る川原なのですが、川岸のそこだけにたまたま竿を振れるくらいのスペースがあるラッキーな場所でした。
寝転がると頭の先が草むらにとどいてしまうくらいの狭いスペースですが長時間の釣りの間には何度か仰向けになることもあります。その日も夜中の10時を過ぎた頃に寝転がって当たりを待っていたのですが、風もないのになぜか顔に髪の毛がかかるのです。
最初のうちは手で払い除けていたのですが余りにもうっとうしく顔にかかるのと、払い除けた髪の毛がなぜか手にまとわりつくことを不思議に思い、起き上がってライトで照らしてみました。最初は植物の何かかと思ったそれは良く見ると蜘蛛のような生き物でした。私の頭のあった場所を照らして見るとその蜘蛛のような生き物がウジャウジャいるのです。
『ザトウムシ』という蜘蛛に似た虫をご存知でしょうか、小さな豆粒のような胴体に異常に長い髪の毛よりも細い足を持った虫です。それが私の頭から背中にかけて大量にくっついていたのです。
噛み付いたりはしない虫ですが、見た目のグロテスクさに気を失いそうになりながら体についたザトウムシを必死で払い落としましたが、家に帰って鏡を見ると10センチほどの『く』の字をした細い足が体の至る所にくっついていました。
その後、二度とその釣り場には行くことはありませんでした。
コオロギのアトリエ