不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

202 [12万」

昔、アトリエに出入りしていた青年に流木で店舗の看板を作って欲しいと頼まれたことがあります。いつも彼が利用している食堂にプレゼントする看板らしく、結局ボランティアで作らされてしまいました。

出来上がった品物を彼の車に積み込むときにまだ乾ききっていないニスの匂いが車の中に充満するのですが、彼が「これは充満しますね」と言ったのを私は看板の本来の値段のことを言っていると勘違いし、「10万じゃないよ。12万だよ」と言い返したのです。

 12-s

彼は「ジュウニマン?…」と不思議そうな顔をしていましたが、その時は彼がそのことについてそれ以上突っ込んでくることはありませんでした。その後パッタリと姿を見せなくなった彼が次にアトリエに現れたのはそれからおよそ1年が経とうとしていた頃です。

彼が持参した高級牛肉で焼肉パーティーとなるのですがアトリエの中は煙でモウモウになります。その時彼がこう言ったのです。

「アトリエの中が焼肉の煙でジュウニマンしますね」

私は彼が何を言っているのかわからずどういう意味か尋ねると、彼は1年前の看板の積み込みのときに私が言った「12万」を『充満』の最上級の呼び方だと1年間ものあいだ勘違いしていたらしいのです。

1年前のお互いの勘違いを1年ぶりに大笑いしました。

コオロギのアトリエ