204 「潜水艦」
小学生の頃にラジコンが流行ったことがあります。当時は高価なものでしたからクラスでも1人とか2人位しか持っていませんでした。
学校の帰りには必ずその友達の家によって見せてもらいます。触らせてはもらえないのです。その友達がラジコンで楽しそうに遊んでいるのを見ているだけなのです。当時はスポーツカーや戦車が遠隔操作で動き回るというだけで感動出来る、そんな時代でした。
そんなある日、隣のクラスの子が『潜水艦』のラジコンを買ったと言う情報が入ります。当時のラジコンブームの中にあって『潜水艦』は脅威でした。ラジコンと言えば自動車か戦車で、水物は精々『戦艦』位しか知りませんでしたから、ある意味盲点を突かれた感じがして異常な期待感がありました。
放課後に近くの池で進水式だと言うのでハイテンションで友達数人と見に行くのですが、すでに池には5~6人の見学者が集まっていました。そんな中、うやうやしく水面に浮かべられた潜水艦は少年の巧みな操作によってその雄姿を水中に沈めていきます。
「おおぉ…」
感動して歓喜の声が上がるのですが、しばらくしてギャラリーの中の一人が昨日の雨で黄土色に濁った水面を見つめながらこう言います。
「…今、どの辺かな?」
その質問にコントローラーを体ごと右に傾けながら少年は言います。
「今、あの辺を右に旋回している。今度は左…」
みんなは黙って黄土色の池を見つめていましたが、その時おそらくみんな同じことを考えていたと思われます。
『過ぎたるは及ばざるが如し』と言う格言を私はまだ知りませんでしたが、それと似たようなことを思っていたような気がします。
コオロギのアトリエ