不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

222 「幻の右ストレート」

私は今日まで殴り合いの喧嘩をしたことがないので自分のパンチ力がどの程度なのかを知りません。ただ、一度だけもしかしたら相当な破壊力があるのではないかと思われる体験をしたことがあります。それは東京時代、高円寺のアパートで起こりました。


窓拭きのバイトを終え、行きつけの食堂で夕食を済ませ、3日ぶりに大嫌いな銭湯にも行った後、描きかけのキャンバスに一筆も入れずにテレビのお笑い番組に夢中になり、コマーシャルの間にとりあえず寝る準備だけでもしておこうと押入れから布団を出すのですが、その日に限って積み重なった布団の一番下の敷布団が気になり、どうしてもその布団を出したくなります。

何故か布団だけは沢山あり、一番下の布団だけを取り出すために上の布団を少しずつ退かすのが面倒くさかったので一番下の布団を両手でつかみ渾身の力をこめて一気に引っ張ってみました。正月のテレビ番組でよく見る、テーブルの上の食器やグラスを倒さずにテーブルクロスを引き抜くあのイメージです。

                  のっくあうと-s

ところが右手が布団から外れてそのまま自分の顔面を直撃します。「グー」の状態に握られたコブシはアゴの右側にヒットしたようです。その辺をハッキリ思い出せないのは記憶が飛んでいるからです。布団を敷こうとしたのが11時頃で目を覚ましたのが明け方の4時位でしたから私は5時間、押入れの前で気を失っていたことになります。

そうです、自分のパンチでノックダウンしたのです。あごの骨が折れているのではないかと思われるくらいの痛みが数日続きましたが、それとは裏腹に想像以上の己のパンチ力の凄さに満足している自分がいたのでした。

コオロギのアトリエ