不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

237 「サイチョウ」

動物園でお世話になっていた時の…いやいや動物としてではなく、住み込みで画を描かせていただいているばかりなのも気が引けたので飼育の手伝いをしていた時の話です。

動物達の食事は朝早くと閉園後の2回ですからその間は比較的自由なのでその日も園内の見回りもかねてスケッチブックを片手に園内をブラブラしていました。園内のほぼ中央にある象のコーナーは高さ1メートル程の丸太の柵で囲まれているのですが、象には見向きもせずにその丸太のひとつに数人の子供たちが群がっています。

何をしているのかと近付いてみると、何と『世界の鳥たち』のコーナーにいるはずの『サイチョウ』が普通にとまっているのです。サイチョウというのは東南アジアからアフリカ、ニューギニアなどに生息する大きなクチバシを持つ、黒い羽と黄色いクチバシのコントラストが美しい大きな鳥で、大きなものになると1メートルを超えるものもいます。

                     サイチョウ-s

そのサイチョウは体調が80センチほどでしたが外で見るといつも檻の中で見るのよりも大きく感じ、チョッと近付くのが怖いくらいした。どうやって逃げ出したのかわかりませんでしたが子供たちはそれも動物園の展示の一部だと思っているようでした。

子供たちの夢を壊せませんし、サイチョウを驚かして逃げられても困りますのでとりあえずスケッチブックを広げながらゆっくりサイチョウに近付きます。

「よーし。黒ちゃん、そのままジッとして…」

サイチョウのスケッチをする振りをしながら様子をうかがいます。ところがクチバシの大きさにビビッてしまい飛びかかるタイミングを逸してしまい、結局サイチョウのスケッチを完璧に仕上げてしまうことになります。その絵を見て子供たちが拍手をしたものですからサイチョウが驚いて隣の丸太に飛び移るのですがそれがキッカケとなってサイチョウに飛び掛ることが出来ました。

抱きかかえたサイチョウに腕をガシガシ噛まれましたが思ったよりも威力はなく「よーし、今日はここまで。おうちに帰ろーね…」とサイチョウと仲良しの演技も出来るほどでした。結果的にはメデタシメデタシだったのですが、不思議なのはサイチョウの展示室のどこにもサイチョウが脱走できそうな箇所が見当たらなかったということです。

コオロギのアトリエ