不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

239 「幻覚」

数年前のお話です。天気も良いし潮の感じも良かったので例の従弟のS君を無理やり釣りに誘いました。平日にかかわらず、やさしいS君は仕事を早めに切り上げてまで私のわがままに付き合ってくれるのですが、会社から自宅に戻るのに15分かかると言うので私もそれに合わせてS君の自宅に向かいます。

S君の家に着いた時にはすでにS君の車が駐車場にあったのでその車の後ろに自分の車を駐車して車を降りようとした時、バックミラーに映るS君が目に入ります。こちらに目もくれず私の車の後ろを通り過ぎようとするS君の横顔がとんでもなく疲れた表情だったので声をかけるのを一瞬ためらってしまうほどでした。

 幻覚B-s

今日の釣りは中止にした方が良いのではなかろうかという気持ちでS君に声をかけるのですが、S君は私を無視したどころか自分の家も通り過ぎて何か思いつめたような表情でどこかへ歩いていきます。これはただ事ではないとS君を追いかけるのですが「どこに行くの?」という聞きなれた声に呼び止められます。

それは家の玄関から顔を出したS君でした。私が驚いてアタフタしている間に最初のS君は2件先の家の角を右に曲がり見えなくなってしまいました。世の中には似た人がいるものだと言うことでその場はやり過ごし、楽しい釣りを満喫するのですが、後で思い起こしてもあれは似ているとかソックリとか言うレベルではありませんでした。どう見てもS君だったのです。

その夏の異常な暑さにやられて私もとうとう幻覚を見るようになってしまったのでしょうか。

コオロギのアトリエ