249 「未確認」
家には4匹のワンがいるのですが、母親のワンを除いて残りの3匹の子供たちは皆ジャンプを得意としています。中でもナナちゃんのジャンプ力は群を抜いており、助走ナシで1メートル以上のジャンプができます。
更には散歩の途中にブロック塀を見かけるとすかさず飛び乗り、塀の上をネコのように起用に走り回ることが出来るのです。この子達の父親と思われるワンが塀を伝って母親のもとに通ってきていたので、おそらくその父親の遺伝子を受け継いだものと思われます。
ナナちゃんはいつも仏間のすぐ外の庭にいるのですが、月に一度お坊さんが御経をあげに来たときに何故か木魚のリズムに合わせて思い切りジャンプします。部屋の中の様子をうかがう為にジャンプしていると思われるのですが、地上から1メートル10センチの位置にあるサッシの窓にキレイに全身が入るのです。
全身が見えたときにはジャンプの頂点ですので、まるで絵のように窓枠の中で静止しているように見えるのです。しかもこちらを見て笑っているような顔をするものですからお坊さんも御経の途中で時々吹き出してしまいます。そんなナナちゃんがある日の明け方4時くらいに突然何かにおびえて激しく吠えるのですが、ついには仏間の窓にジャンプして窓を激しくキックするのです。
ただ事ではないと隣の風呂場の中に非難させるとそのおびえようは尋常ではなく、全速力で走ってもあのような息の切れ方をしたことがないほど長時間息を切らしたままで、そのまま死んでしまうのではなかろうかと思うほどでした。
そんなナナちゃんを見るのは初めてでしたし、風呂場の中でも仕切りと私の影に身を隠そうとするそのおびえ方から何だか私も怖くなり、外を見ることが出来なくなってしまいました。30分ほど側にいてやっと落ち着きを取り戻したナナちゃんを無理やり外に出しながら恐る恐る外の様子を窺うのですが、外は何事もなかったように静まり返っていました。ただ、残りの3匹のワン達が揃って空を見上げていたのがチョッと不思議でした。
いったいナナちゃんは何を見たのでしょうか。
コオロギのアトリエ