不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

250 「カガミ」

造形の仕事をしていた頃に、ある新装のパチンコ店の正面玄関にオブジェを設置していたときの話です。2~3日後にはオープンするというその現場はいろんな業者が入り乱れてのテンヤワンヤの状態でした。

私はガラス張りの玄関の外側に足場を組んで作業をしていたものですから作業をしながら店内の様子が良く見えたのですが、その業者さんの中にガラスとか鏡を扱う業者さんがいました。その業者さんは30代後半の上司らしき男性と50代前半の頼りなさそうな男性の従業員の2人組みでした。

年下の上司にアゴでコキ使われている50代の男性は新人さんなのか、なにをやっても見ているのが忍びないくらいに叱られるのですが、その2人のやり取りの中で信じられない場面に遭遇します。作業的には入り口の脇にある180センチ×90センチほどの枠の中にカガミをはめ込むという作業のようでした。従業員の名前を忘れてしまったのでここでは仮に『ゲンさん』とさせてもらいます。


上司「ゲンさん、カガミ持ってきて…」


ゲンさん「・・・」


上司「聞いているのか?カガミだよ」

ゲンさんは思いつめたような表情をしたままどこかへ行ったのですが、10分程してゲンさんは戻ってきます。上司はそのゲンさんが持ってきた物を受け取りながら言います。


上司「そうそう、これこれ、これをこうしてこの枠の中に…って、おいっ、これってタタミやないかい。俺が言ったのはカ、ガ、ミ、これはタ、タ、ミ、…『ミ』しか合ってないじゃないか」

 かがみ-s

完璧な乗り突っ込みでした。ゲンさんを叱りながら上司は少し笑ってしまうのですが、それにしてもゲンさんはその新品のタタミをどこから持ってきたのかが不思議でしょうがありませんでした。その現場にタタミなどないはずなのです。

上司もその辺の所をシツコク追及するのですが、神妙な顔で上司の小言を聞いているゲンさんはその質問の時だけは何故か満面の笑みを浮かべるのでした。

コオロギのアトリエ