252 「床下」
これはたぶん夢だと思うのですが、いや、夢です。夢であって欲しいのです。それは小学5年生の時です。斜面に突き出すように建てられた子供部屋の床下には広い空間があり、先端の床下は大人でも直立出来るくらいの高さがありました。
奥に行くにしたがって段々と狭くなるのですが、両サイドがブロックの壁になっていた建物の裏山に面した部分には壁がなかったのでその洞穴状のスペースは近所の子供たちの絶好の遊び場になっていて、気がつくと秘密基地のようになっていました。
誰かが床下にいるときには『コンコン』と床を下から叩いて合図をくれるので、合図があると私も床下に集合していたのです。ある日、夜の10時頃に床下から合図があったのですが今までにも何回か夜中に集合したことがありましたのでその日も何のためらいもなく床下に向かいます。ところが床下を覗いても人がいる気配がしないのです。
不思議に思いつつもみんなのイタズラなのだろうとドンドン床下の奥に進んでいくのですが、友達がそこにいると思えばこそそんな大胆な行動が取れるわけで誰もいないのがわかっていれば人一倍臆病な私が夜中にそんな大胆なことが出来るわけがありません。
中ほどまで進んだところで暗闇に目が慣れてきた私は一番奥の暗闇に人影を見つけます。その時、そこにいるのが友達ではないと確信したのはその大きさからですが、暗闇の中で体育座りをする魚のような生臭い匂いのするその頭の小さな生き物の身長は2メートルを越えていました。
何故大きさがわかったかと言うと、私の脇を猛スピードで駆け抜け軽々と前の小川を飛び越え、あっという間に裏山の奥深くに消えていったその真っ黒な生き物が子供部屋の床の一番高所を通る時にかなり背中を丸めていたからですが、その異常に細く長い手足を見たとき何故か『河童』だと思ったのは自分でも不思議でした。
頭の皿も背中の甲羅もなかったのですが『河童』だと確信したのです。そんな夢を見ました。たぶん…
コオロギのアトリエ