不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

256 「特殊能力」

 随分昔の話ですが、山奥のアトリエで制作していたときの話です。そのアトリエがある場所と言うのは、たまたま近所に用事があったのでチョッと寄ってみようかなどという生易しい場所ではありませんでした。初めて訪ねてくる人はどんなに説明してもまずストレートでたどり着くことは出来ないような所で、中には2ヶ月かかってもたどり着けない人もいました。

そんな山深い場所に2年ほど居たのですが、2~3週間、誰にも合わないというのは普通のことで、逆に人を見かけることの方が何だか不自然な感じがしていました。どこを見ても緑色なものですから空の青と雲の白をあれほど有り難く感じた2年間はありませんでした。そんな環境で朝から晩まで絵の事に集中していると異常に勘が冴えてくるのです。


そんなある日いつものように大きなキャンバスに向かって絵を描いていると妹が子供を連れて車でこちらに向かっている映像が脳裏を横切ります。集中してみると細い山道のカーブで砂利を積んだダンプカーと衝突する映像が見えたので思わず体に力が入ったのを覚えています。

 トラック-s

それからしばらくしてアトリエの前で車が止まる音がし、玄関を開けて妹と子供が入ってきたのを背中で感じたのでとりあえずこう言うしかありませんでした。

「君達は山道のカーブでダンプと正面衝突して、すでに亡くなっているのではないのか?」

私が振り向きもせず突然そんなことを言うものですから妹は驚きます。

「何で知っているの?実はカーブでダンプと正面衝突したけれど何故か自分の車はダンプをすり抜けたのよ。急ブレーキを踏んで止まったダンプの運転手も不思議そうな顔をしていた。えっ、私達、死んでいるの?」

あれから15年ほど経ちますが妹は未だに時々特殊能力を発揮しているようですが、残念なことにあれから世間の荒波に揉まれ、雑念の固まりになってしまった私の感覚は普通のオヤジのレベルに戻ってしまいました。

コオロギのアトリエ