不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

257 「マピソ」

動物園時代の寝泊りはキャンピングトレーラーでした。園内には7,8台のキャンピングトレーラーがあり、それぞれに従業員の個性が出た空間が面白くて閉園後には必ず誰かのキャンピングトレーラーにお邪魔するのが日課になっていたのですが、ある時、最年長のKさんのキャンピングトレーラーにお邪魔した時にたまたま天井の真ん中に妙なラクガキを見つけます。

それは注意していなければ見逃してしまいそうな小さな文字で『マピソ』と書かれていました。黒のボールペンで縦に書かれたそれは何の目的でわざわざそこに書かれたのか、そもそもマピソとはどういう意味なのかが気になったので普通にKさんに尋ねます。

                                               マピソ-s

ところがKさんの反応は意外なものでした。いつもは冷静で落ち着きがあるKさんなのですがマピソという言葉を聞いた途端とてもうろたえ、明らかに慌てているようでした。結局Kさんはその質問には答えずに話を誤魔化すのですが、不思議なことにそのことを他の従業員にそれとなく聞いてみても、ほぼ全員が同じような態度をとるのです。

どうもその動物園では触れてはいけない事柄のようでした。それから10数年後に立ち上げた造形の工房のネーミングを『マピソ アート スタジオ』にしたのは頭の片隅にこびり付いていたそのマピソという響きの美しさをどうしても忘れられなかったからですが、ヒョンなことからその意味を知ってしまったのです。

友人達とお遊びでマージャンをしていたときのこと、友人の一人が鼻歌交じりに『マン、ピン、ソウ、ジ! マン、ピン、ソウ、ジ!』と歌っているのを聞いて全てを理解します。マピソとはマージャン牌の『萬子(マンズ)筒子(ピンズ)索子(ソーズ)字牌(ジハイ)』の内のマンズとピンズとソーズの頭文字だったのです。

なるほど、動物園時代に覚えたてのマージャンをする度に負けていたのはそう言う事だったのです。つまり、マージャンをするのはいつもKさんのキャンピングカーと決まっていましたし、ジャン卓を囲んだ私以外の3人が時々天井を見上げて意味もなく咳払いをしていたのは咳払いの回数で自分の欲しい牌の種類をイカサマ仲間に知らせる合図だったのです。

コオロギのアトリエ