259 「ウィンドサーフィン」
10数年前のこと、ウィンドサーフィンが得意な画家のKさんに連れられてほとんど強制的に近くの海でサーフィンの練習をさせられるのですが、私にはそのセンスは皆無らしく1時間近くの練習にも係わらずボードの上に立つことすらできませんでした。
全く成果の出ない私に愛想が尽きたのか、Kさんはひとりでウィンドサーフィンを始めてしまうものですから1人残された私は意地になって更に練習を続けました。その内、何かの拍子に偶然にボードの上に立ててしまい良い感じで前に進むことが出来たのですが5メートルも行かないうちに派手にひっくり返ってしまいます。
その拍子に愛用のメガネが外れ何処かに飛んでいってしまいます。私はメガネがないとほとんど何も見えませんし、しかもかなりの水深のある所まで来てしまっていたのでパニックになってしまいます。胸元くらいまで波が来ている中、足で海底を探ってもメガネらしき物には触れません。
しかしこのまま岸に戻っても車の運転も出来ないと思い、ボードを放り出して思い切って水中に潜ります。ところが何も見えないのです。それよりも何よりも体が浮いてしまって海底まで手が届かないのです。それでも何度かチャレンジしてみましたが生命の危険を感じ始めたので止むを得ずメガネをあきらめ岸に戻ります。
風向きの関係で偶然にもボードが岸に流れ着いていたことが唯一の救いでした。ちょうど戻ってきたKさんはそんなことがあったことなどこれっぽっちも知りません。そろそろ引き上げようと言うKさんに促されてボードを片付けようとした時、私があげた悲鳴の意味もKさんは知るよしもないのです。
何と愛用のメガネはボードの上にあったのです。
コオロギのアトリエ