271 「綿」
私は生後6ヶ月間、音というものを知りませんでした。自分ではそのことを記憶してはいないのですが、これは親から聞いた話です。私が生まれてしばらくして、どうも音が聞こえていない事に気づくのですが、親はそんな私のことをそれは々ふびんに思ったそうです。
半年が過ぎようとしたある日、私を夏の花火大会に連れて行くのですが何故か大きな花火が上がるたびに泣き叫ぶ私を不思議に思い翌日医者に連れて行って驚きます。両方の耳の奥の方から石が出てきたからです。
実は石と思われたものはカチカチに固まった『綿』だったらしいのですが、私が泣いた原因は花火の大音響で振動したカチカチの綿が鼓膜を刺激して激痛を与えていた為だったようです。
その日から普通に音が聞こえるようになったのですが、なぜ耳の奥に綿が詰まっていたのかは未だに謎のままです。
コオロギのアトリエ