不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

273 「タバコ」

東京時代にバイトの後輩が新しいアパートに引っ越したというので週末に泊りがけで遊びに行ったときの話しです。都心から随分離れた、まだいたる所に自然の残る静かな素敵な所でした。

夕食をすませ2人で表をブラブラしながら近くのタバコの自動販売機までタバコを買いに行ったのですが、タバコを買い終わった時に中年の男性に声をかけられます。タバコを1本わけて欲しいというのです。

見た感じは特別貧しいという印象ではありませんし、どちらかというと身なりも態度も一般の人よりもチャンとしていました。私はたまたまタバコを2箱買っていたので1箱をその男性に渡したのですが男性はそれを申し訳なく思っていたようです。

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私としてはわざわざタバコ1本を取り出すのが面倒臭かったのと、タバコを吸う者としてはおそらく1本では物足りないだろうなと思ったからです。そんなことがあったことも忘れた1週間か10日たったある日のこと、バイトを終え、駅で帰りの切符を買う段になってサイフをなくしたことに気がつきます。

サイフにはほとんど現金は入ってはいませんでしたからそれほどショックはありませんでしたが、切符が買えないのにはチョッと困りました。アパートまで歩いて帰るのは不可能な距離だったからです。見ず知らずの人に訳を話してお金を借りるのも自分の性格上無理でした。

当時は携帯電話もありませんし、公衆電話をかける10円玉すらないのです。ホトホト困り果てて半ば放心状態の所に例のバイト仲間の声です。神様は本当にいるのかも知れないと思ったのもつかの間、彼の口から出た言葉に目の前が真っ暗になりました。

「あぁ、助かった。先輩、お金を貸してください」

 

 


 つづく

コオロギのアトリエ