277 「カモメ」
そんなS君と防波堤で釣りをしているときに彼が『カモメ』を釣ったことがあります。投げ釣りでカレイを狙っていたのですがS君の投げた仕掛けがいつまでたっても海面に落ちてこないのを不思議に思っていると何と空からカモメが落ちてきたのです。
S君の投げた仕掛けが偶然に上空のカモメに絡まってしまったのです。近くで見るカモメは結構な大きさで、うかつに手を近づけようものなら鋭いくちばしで手を噛まれてしまいます。それでもS君は手を血だらけにしながらもカモメに絡まった糸を丁寧に外します。
『何と優しい男だ』と少し感動したのですが、S君はそのカモメをクーラーの中に押し込みながらこう言ったのです。
「これで今晩の夕飯は確保できた…」
冗談だと思ったのですが彼は本気のようでした。しばらく釣りを続けるのですがクーラーの中でカモメがバタバタ暴れるのを周りの釣り人に不審がられるのに耐え切れず早々に引き上げます。
2日間はお風呂場でカモメを飼っていたようですが、さすがのS君もカモメを食べることは出来なかったらしく、カモメは逃がしてあげたようです。
確認はしていませんが…
コオロギのアトリエ