不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

292 「龍」

農業を営んでいる義理の兄から聞いた話です。ご近所に住むNさんは心身の発育が少し特殊だったらしくあまり人とのコミュニケーションが得意ではなかったそうですが、それでもNさんは人から農作業の手伝いを頼まれれば文句も言わずにとても良く働いたそうです。

30歳を過ぎてもまるで少年のように純粋なNさんは地域の人達にとても愛されたそうです。そのNさんがある春の日に亡くなられるのですが、独り身だったNさんの為に地域の人達は立派な葬儀をあげたそうです。それは葬儀の翌日に起こります。

その日、畑に出て農作業をしている義理の兄に向かって同じく近くで作業をしていた近所の人が空を指差して叫びます。

「Aさん、あそこに龍がいる!」

 

 

                        ryu-s


 
兄が驚いて空を見上げると、雲ひとつない真っ青な空の中に半透明で所々が銀色に輝く龍がその長い体をくねらせながら天高く昇っているのが見えたといいます。その龍が空の彼方に見えなくなるまで4,5人で空を見上げていたそうですが、何故か全員が『あれはきっとNさんが龍になって天に昇っているのだ』と思ったそうです。

 

 おそらくは春一番の強い風にあおられたビニールハウスのビニールがたまたま風に乗っただけの事なのかも知れませんが、不思議なことに私はその話を聞きながら、畑の中でこちらを見上げる4,5人の人を空の上から見下ろしながら、遠くの川の土手に咲いた菜の花の哀しいくらいに美しい黄色を懐かしく感じているNさんの気持ちがわかったのです。


コオロギのアトリエ