不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

294 「流氷」

人生の師匠でもあるKさんはあの現代美術の巨匠ナム・ジュン・パイクに『Kは世界で最も無名な有名人だ』と言わしめるくらいに限りなく一般大衆に近いアーティストでした。

Kさんが地球上に存在しているということだけでこの上なく美しい作品を目の当たりにさせてもらっている、そんな気持ちにさせてくれる不思議な魅力の持ち主でした。

そんなKさんは数多くの普通では考えられないような経験をしています。たとえばKさんは数年間北海道で暮らしていた時期があるのですが、何と流氷に乗ったことがあるらしいのです。2月か3月頃に接岸した流氷に乗って遊んでいると突然流氷が海岸から離れ沖に流れ出したといいます。

                                                   流氷-s

普通はそこで危険を感じ岸に戻ることを考えるのですが、Kさんはそのまま流氷に乗ってどこかへ行こうと考えたそうです。たまたま風向きが変わり岸に戻ってきた所で地元の漁師さんにひどく叱られるのですが、いったいどこに行こうとしたのかとKさんに聞くとこう言います。

「そんなことはわからないよ。着いたところが目的地だろ?それじゃぁ君は電車に乗るときに目的地を決めて乗るのかね」

…私は目的地を決めて乗りますのでKさんの言っている意味が良くわかりませんでしたが、少年のように目を輝かせながらそう言うKさんは昔、スペインのバルセロナから二駅先まで乗る予定だった列車の中で居眠りをしてしまい、目が覚めたときには何故かイタリアのフィレンツェにいたという経験があります。距離的には約1000キロメートルです。ちなみに福岡、東京間がおよそ800キロメートルです。

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