不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

309 「月」

思えば小学生の低学年時代には数々の洗礼を受けているようです。授業で自分が目立つことが出来るのは体育の時間か図工の時間しかないアホな子供でしたが、特に図工の写生の時間は異常にテンションが上がっていました。

教室の外に出られると言うだけで勉強嫌いな私にとっては極楽でしたし、しかも自由に好きな絵を描けるのですから写生の時間の私は正に水を得た魚状態でした。ありがたい事に別に習ったわけでもないのに何故かデッサンは正確で、かなり複雑な構図や微妙な色彩表現が楽に出来ていました。

しかも先生の忠告を素直に聞き入れることで評価が高くなることも理解していたものですから始末に負えません。ところが絵に関しては向かう所敵なしの状態で少し天狗になっていたある写生大会の日にそれは起こります。

                       月-s


 

自信たっぷりに提出した絵が思ったより評価が低かったのです。それどころか先生は私を嘘つき呼ばわりするのです。全く意味がわからない私に先生は「太陽と月が同時に空にあることなど絶対にない」と言い切ります。私は先生の忠告を忠実に守り、あるがままの空を描いたのにそれが嘘だというのです。

実際に空には太陽と白い月が浮かんでいたし、現象としても昼間に月が見えることは普通にあるのです。私の抗議もボキャブラリー不足から先生には理解してもらえなかったのですが、それ以来、『場合によっては本当のことは描かない方が正解の事もある』と言う訳のわからない常識に振り回されながら、それでも少年は逞しく生きていくのでした。

コオロギのアトリエ