334 「犬」
この話は内容の一部にペットに対して飼い主の適切ではない行為が出て来ますが、私的にはハッピーエンドであると判断しましたので書かせて頂くことにしました。
私より2歳年下のX君とは古くからの知り合いで良く働く心の優しい男なのですが、10年ほど前に離婚問題や仕事のトラブルなどでかなり大変な時期がありました。この話はその大変な時期を乗り越えて元気になったX君から聞いた話です。
X君の家では黒いワンちゃんがペットとして飼われていたのですが、その雑種のワンちゃんは1年ほど前にどこかに捨てられていたのをX君が連れて帰ったらしいのですが育て方が良くなかったのか、とても良く吠えるワンちゃんでした。
日頃から近所に迷惑をかけているのではなかろうかという心配があった所に一連のトラブルが重なり、ノイローゼ気味のX君はある日の明け方の早い時間に吠えだしたワンちゃんにプッツンしてしまいます。気が付けば車で10分ほど離れた近くの川に架かる橋の上からあろうことかワンちゃんを川に投げ込んでしまいます。
濁流の中に姿が見えなくなるワンちゃんを見てハタと我に返り、自分のしたことを後悔し必死で河口を探すのですが時すでに遅くワンちゃんを見つけることはできませんでした。とんでもない事をしてしまったという気持ちで自宅に戻り、さっきまでワンちゃんのつながれていた犬小屋に目をやって腰を抜かすほど驚きます。
なんとびしょ濡れのワンちゃんがしっぽを振りながらX君の帰りを待っていたのです。X君が駆け寄るとワンちゃんは嬉しそうにX君の顔をペロペロ舐めたといいます。X君が泣いたのはワンちゃんの無事もありますが、自分のした事の情けなさに対してだったと言います。
その事をきっかけにX君は様々な問題に前向きに立ち向かう事が出来るようになり見事困難を乗り越えます。今でもその黒いワンちゃんはX君の家で幸せに暮らしていますが、年をとって貫禄が増したせいでしょうか、昔みたいにうるさく吠える事はなくなりました。
コオロギのアトリエ