336 「ハイネック」

世間には至る所に『話のかけら』のようなものがあり、それだけでは別に何の意味も持たない他愛のない話なのですが、何かの拍子に別のパーツとピッタリ合わさった時に初めてその本当の意味を理解出来るということがあります。

その女性からその話を聞いたのは２年前の事でした。結婚したばかりのその女性は雑談の中で『自分はハイネックやタートルネックのセーターが苦手で、チェーンの長いネックレスは大丈夫だが短めのチェーンは駄目だ』みたいな事を言います。

その時は別に気に留める話でもありませんから適当に流すのですが、つい最近その女性の母親とお話しする機会があり、去年の暮れにその娘さんに赤ちゃんが生まれた事を聞かされます。近頃は育児に疲れた娘さんが母親に孫の面倒を見てもらおうと週に何回か赤ちゃんを連れて遊びに来るらしいのですが、母親の方も何だかんだ言いながら結構嬉しそうでした。

　　　　　　　　　　　　　　　　

その時の話の流れでたまたま育児ノイローゼの話になったのですが、その時の母親のあるお話を聞いて２年前に聞いた娘さんの話の意味がわかりました。母親が言うには娘さんが初めての出産で余にも神経質になりすぎて一時期育児ノイローゼのようになり、その時に泣き止まない娘さんの首を衝動的に絞めてしまったと言うのです。

勿論それは瞬間的な気の迷いでその後は立派に娘さんを育て上げるのですが、娘さんのハイネック嫌いの原因はそこにあるのだと思いました。当然その事は娘さんには言っていませんし娘さんも何故、自分が首を締め付ける洋服が苦手なのかは知らないのです。

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