374 「カモフラージュ」
夕食を終えて義理の兄の家に届け物をした時の話です。たまたま兄はノートパソコンで何やら検索をしているのですが最近パソコンを始めたばかりなので上手く検索できないようでした。どうもある歌手動画を検索したいらしいのですが何故かその歌手の名前を伏せて私に検索の手順だけを聞くのです。
何度聞いても教えてくれないので「だったらとりあえず誰でも良いから歌手の名前を検索バーに打ち込んでみてよ」と私が言うと「最近の歌手で良いか?」と言うので「構わない」と言うと兄は「三波春夫で良いか?」と聞いてきたのです。
兄の最近は三波春夫なのだとビックリしていると、何かを察した兄は「南こうせつ」と言い直します。ほとんど意味のない修正に私は笑いをこらえていたのですが、事もあろうに更に被せて来たのです。
「やっぱり南沙織だな…」
こらえ切れずに声を出して笑う私に兄が追い打ちをかけます。
「…南野陽子か?」
とどめを刺された私は年代の古さよりも何故『ミナミ』にこだわらなければならないのかが気になったのですが、すぐに理由はわかりました。カモフラージュだったのです。
最終的に義理の兄が検索しようとしていたのは『北島三郎』でした。
コオロギのアトリエ