382 「蜂の巣」
その滝には季節ごとに訪れるので最低でも年4回は足を運ぶ事になります。日本の滝100選にも選ばれているその滝の優雅さはどことなく観音のイメージがあって個人的にとても気に入ったスポットとなっているのですが、ある時同行してくれたTさんが滝の上の方を指差しながら「ハチの巣がある」と言うのです。
Tさんの指さす場所は85メートル近くある滝の上の方の岩場でしたのでそこにハチの巣を確認するのはほぼ不可能に思われました。Tさんは余程目が良いのだろうと感心していると「1メートルはあるね」と言うのです。
『ウソだろ』と思いながら良く々見ると何と垂直にそそり立つ岩場に巨大な丸いハチの巣があったのです。岩の色と同化しているとは言え、何年もその滝に通っているのに私はその大きなハチの巣に全く気づかなかったのです。実はTさんは1メートルと言いましたが距離から判断してそのハチの巣はどう見積もっても軽自動車位の大きさはあると思われました。しかし何故今までそんな巨大なものに気づかなかったのかが不思議でなりませんでした。
ところがです。それから2週間も経たないうちにもう一度その滝に行くチャンスがあったので証拠の写真を撮っておこうとデジカメ持参で滝を訪れショックを受けます。ハチの巣がないのです。1日、2日雨の日はありましたがハチの巣に影響を及ぼすほどの雨でもありませんでしたし、強風の日があったわけでもないのです。
滝壺の周辺も探してみましたがハチの巣が落下した形跡もなく、まるで狐につままれたようでした。その後、滝のハチの巣のことをいろんな人に聞いてみるのですがあの巨大なハチの巣を見たのは今のところTさんと私の2人だけなのです。
コオロギのアトリエ