122 「黒豹」
クロヒョウに直に触ったのはその時が初めてでした。目の前に横たわる黒いビロードのような毛並みは至近距離で見るとチャンと豹柄になっていて、思ったよりも体温を感じないその毛並みに添って体をさすり続けながら『もし今、麻酔が切れて黒豹の意識が戻ったら自分はどうなるのだろう。その瞬間に私は噛まれてしまうのかなぁ…』そんなことを考えていました。
剥き出しになった鋭い牙に指で触れてみると意外にも先端が研磨されていることに驚きながら、かつてはジャングルの王者として君臨していたであろう、その雄姿を想像していました。元気になって欲しいような今はこのままでいて欲しいような微妙な気持ちのまま約束の2時間が過ぎ、担当の獣医と交代したのが夜中の3時でした。
テントの外に出た時に見上げた満天の星空と、黒豹に寄り添っていた現実離れした2時間の不思議な感覚を今でも忘れません。
コオロギのアトリエ