不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

129 「トヌ」

思い返せば今までに随分とアトリエを変えてきたのですが、そのアトリエごとに色々な思い出があるわけです。たとえば最初のアトリエには毎日同じ時刻にやって来る一匹の野良犬がいたのですが、短い白い毛をした痩せこけた気の弱そうなその犬はいつもおなかをすかしているようでした。


野良犬の世界にも勢力争いのようなものがあって、思うように餌にありつけなかったのだと思います。そんなある日のこと、たまたま黄色と黒の水性ペンキが余ったのでイタズラ心で野良さんに虎の模様のペイントをしてみたのですが、才能とは恐ろしいもので、それはそれは見事なタイガーが出来上がってしまいました。

トヌ-s



野良さんはペイントされるのを嫌がらなかったのは抵抗する体力も気力もなかったのかもしれません。虎と犬の合体ですから『トヌ』と名づけられた野良さんは何故か次の日からパッタリと姿を見せなくなります。次にトヌが姿をあらわしたのは、ほぼ2ヶ月が過ぎようとした頃なのですが、最初はそれがトヌだとは思いませんでした。

大きさが違うのです。その精悍な表情と丸々と太った体にはあの頃のトヌの面影はありませんでした。体の所々に残った黄色と黒のペンキの跡がなければそれがトヌだとはわからなかったと思います。。想像ですが、おそらくトヌはあのペイントのお陰で短期間の内に野良犬界の頂点に君臨したものと思われます。

もしかすると黄色と黒の組み合わせは野良犬界、いや、自然界においてはある種の脅威で、動物の本能的な部分を無条件で威圧してしまうのかも知れません。それっきりトヌがアトリエに姿を現すことがなかったところをみると、ヒョットするとあれは礼を言うためにわざわざ戻って来てくれたのかもしれません。

それとも、もう一度ペイントしてもらいたかったのかなぁ…。

コオロギのアトリエ