不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

162 「背中」

小学生の頃の話です。当時は今のようにテレビゲームなどありませんから遊びといえばビー玉やメンコが主流になります。それとは別に定期的にブームになる遊びがあり、その時々で遊びの種類は変わるのですが、ある時期に『山を探検する』というのが流行ったことがあります。

探検と言っても友達数人で近くの山の中をただひたすら歩き回るだけなのですがこれが結構面白かったりするのです。その日も4,5人で山に入るのですが自宅が山に近いという理由だけでいつも私が先頭を歩かされます。

けもの道のような細い道を1メートル間隔ぐらいで4,5人が一列になって歩きながらいつものように得体の知れない化け物の話や宇宙人の話で盛り上がっていると突然私の背中を誰かが叩いたのです。

同時にすぐ後を歩いていた友達がとんでもない悲鳴を上げます。驚いて振り向くと皆は私を残したまま来た道を全速力で走って逃げていくのです。全く意味がわからなかったのですが、私の背中に違和感があるのだけはわかりました。

         背中-s

誰かが背中を叩いたのではなく、背中に何かがいるのです。かなりズッシリしたものが私の背中に張り付いている感じです。一番怖いのは私ですから私も皆の後を追って走るのですが、おそらく先頭を走っている数人の友達は何故逃げているのかもわかっていなかったと思います。

ただ私の前の友達が大声で意味不明なことを叫ぶのを聞いて各々がイメージを膨らませているのです。

「背中にツイター…背中にツイター…ウォー…タカシちゃんの背中に何かツイター」

…怖いと言ったらありません。皆はイメージだけで背中に付いたものを想像するだけですが、私の背中には実際にそれが張り付いていて、それはどうも少しずつ背中を這い上がってきているようなのです。払い落とすにも手はとどきませんし、それを自分の目で確認できないだけに恐怖は頂点に達します。

「ヒィー…待ってくれよぉ…何かが、背中に、何かが背中にぃー」

それを聞いた皆は更に走るスピードを増すのです。山の中に入って1時間は歩いたのですが山を出るときは10分もかからなかったと思います。

実は山の麓に着く直前に背中のそれは居なくなったのですが、後でそれを実際に見た友達の話を総合するとどうやらそれは『ムササビ』ではなかったろうかという結論に達しました。しかし不思議なことに以後その山でムササビらしい生き物は一度も見ていないのです。

あれは本当にムササビだったのでしょうか、もしかしたら…

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