244 「サンタナ」
中学時代に掃除の時間というのがあり、いつもふざけてばかりでまともに掃除をしたことがなかったのですが、掃除が始まってすぐにある掃除担当の先生による校内放送だけは待ちどうしくてたまりませんでした。
放送の中に『…桟(さん)や棚(たな)も忘れずに掃除するように』と言う件があるのですが、放送にも慣れてきたのでしょう、ある時期から『サン・タナも忘れずに』と簡略するようになったのです。その『サンタナ』と言う所を待って音楽好きの友達数人と大喜びすると言うただそれだけのことなのですが、その年代と言うのはそれだけで結構盛り上がれたりするものなのです。
「ぶ、ブラックマジックウーマンか?」
ホウキのギターをかき鳴らしながら盛り上がるのですが、騒いでいるのはその数人だけで他の生徒達には何のことやら意味がわかりませんからいつも真面目に掃除をしている女子に「真面目に掃除しなさいよ」と叱られるのが落ちでした。
ところが更に放送に慣れてきた先生はある時期からその我々の唯一の喜びを台無しにすることになります。「サンタナ」と言う所を「タンサナ」と言うようになったのです。当然本人は気づいていませんし、あまりにもサラッと流すものですからそれを聞いているほとんどの生徒も間違いに気がつかないのです。
「サンタナ」を待ち焦がれる我々にはショックこの上ないのですが、それを誰にも理解してもらえないというジレンマが更に追い討ちをかけるという何とも残念な掃除の時間になってしまいました。
今でもサンタナを聞くたびに心の中で『…タンサナ』と呟く自分がいます。
コオロギのアトリエ