不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

395 「直線道路」

その道路は一級河川と並行したほぼ直線の道路です。田園の中を一直線に貫くその途中に少し上り坂になった個所があるのですがその場所だけ道路の脇が広葉樹の林になっています。その日は夜中の11時頃にその道路を走行していて、いつものようにその坂に差し掛かるのですが、フト見ると坂の途中の歩道に人が倒れているのです。

薄いグリーンの作業服を着た中年の男性のようでした。男性から10メートルほど離れた所に車を停車して街灯の明かりを頼りにバックミラーで男性の様子をしばらくうかがっていたのですが男性はうつ伏せに倒れたまま動かないのでさすがにマズイと思い車から降りて男性の所に駆け寄ります。

作業服の男性はうつ伏せの状態で顔を林の方に向けたまま右手は体にピッタリ付け左腕は歩道の柵の向こう側、つまり林の方にありました。林と歩道には高さの差があるので腕の肩から先は柵の向こう側でだらりとぶら下がっていると思われました。

                  直線道路-s

恐る恐る顔を覗き込むと男性の目は開かれたままだったので一瞬ギョッとしましたが勇気を出して「大丈夫ですか?」と声をかけます。人は本当に驚くと声などは出ないということをその時知るのですが、私が声をかけるのとほとんど同時に「とれたぁー」と叫びながらその男性が飛び起きたのです。

ビックリして動けない直立不動の私に目もくれず、その男性は携帯電話を耳にあてがい電話の相手と何やら盛り上がりながら片方の手で体の埃をはらいつつ歩いて行きました。どうやら携帯で通話中に誤って林の中に携帯を落としてしまったようです。それを拾おうとしてやむなくうつ伏せの体勢をとっていただけのようでした。

とりあえずは何事もなかった事に安心はしたのですが、腑に落ちないのは、男性は完全に私を無視していたと言う事と近くに男性の車が見当たらなかったということです。その直線道路の途中にこれといった建物はなく、いったいその男性はどこからどこまで歩くつもりだったのかが不思議でなりません。

コオロギのアトリエ