不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

377 「ワインオープナー」

集団催眠というものがあるらしいのですが、誰かが意識してそうしたのではなく全くの偶然がそのような状況を作り出すことはあると思います。

先日、気の合う仲間数人とカラオケに行った時の話です。そのカラオケボックスは持ち込みが自由と言うことで大量の食べ物と飲み物が持ち込まれるのですが、テーブルの上のワインのボトルを早速開けようとしているYさんがワインオープナーの使い方に戸惑っていました。

そのオープナーはTさんが持ってきたものらしく両サイドの取っ手を下方に押し下げるとコルクの栓が抜けるというタイプの物でした。Yさんが余りにも手こずるものですから私もつい口出しをしてしまうのですが、その使い方を説明しながら自分の知っているオープナーと少し仕組みが違うことに気づきます。

部品が多いというか足りないというか、チョット変なのです。Yさんが「こうじゃないの」と言いながら器具に付いている小さな円筒形のカップのようなものをボトルのキャップに被せます。その大きさはキャップにピッタリフィットするのですが両サイドの取っ手を下方に下ろしても全く抵抗がないわけですからコルクの栓が抜けるはずもありません。しかも片方の取っ手は機能していないようなのです。

                  オープナー-s

これはもう持主に操作法を聞くしかないと思いTさんを見ると、Tさんはお腹を抱えて笑い転げています。余程おかしかったのでしょう声が出せない位に笑いながら両手でバッテンを作りオープナーを指差すのでYさんを見ると、悪戦苦闘するYさんが手にしているワインオープナーとばかり思っていたそれは何とラーメン屋でよく見かけるニンニクをつぶす時に使うあの金属の器具だったのです。

確かにパッと見は良く似てはいますが、普通なら絶対に見間違えたりはしません。持ってきた本人がそれだと信じ切っているものですからそこにいた全員が催眠にかかってしまい誰ひとりとしてそれをニンニククラッシャーだとは気づかなかったのです。

あまりにも面白かったのでYさんにはそのまましばらくガンバっていただきました。

コオロギのアトリエ 

376 「青」

この間、定期検診のために病院に行った時のお話です。全ての検査を終えて会計を済ますために長椅子に座って名前を呼ばれるのを待つのですが、その日は20人位の人が順番を待っていてその中に高校生くらいの女の子の3人組がいました。

どうも後の2人は付き添いのようで、結構にぎやかにおしゃべりしていました。別に盗み聞きをするつもりはなかったのですが3人の会話は聞こえてきます。その会話の中に何度となく『アオ』と言う単語が出てくるのが気になったので意識して聞いてみると、どうも治療か検査を終えた女の子のニックネームのようでした。
 
                   青-s

私は彼女が『アオ』と呼ばれるのは名前の一部に『青』という文字が使われているからだと勝手に決めていたのですが、苗字に『青』が使われているのか名前の方なのかが気になってしまいます。

ところが彼女の名前が呼ばれた時、どこにも『青』と言う文字は使われていなかったのです。不思議に思いながらその名前を頭の中で漢字に置き換えて確認するのですが帰りの車の中で突然ひらめいたのです。彼女の名前は『オオヌキ
 ワカナ』さんでした。

もしかしたら『オオムギ
 ワカバ』にかけていたのではないでしょうか、きっと『青汁』の原料である『大麦若葉』から連想した青汁の『青』だったのです。…たぶん。

コオロギのアトリエ 

375 「ブランコ」

絵に描いたような出来過ぎたシチュエーションというのがあります。夜のワンの散歩の途中にある小さな公園の2つ並んだ赤と青のブランコを見る度に『誰も乗っていないのに揺れていたら怖いだろうな』と毎回思っていたのですが、ついに先日、青い方のブランコだけが揺れていました。

実際に体験してみると意外と恐怖心は湧いてこないもので、その辺に今までブランコを漕いでいたであろう人影を探す余裕もありました。

                 ブランコ-s

不思議だったのはそのブランコの揺れ方で、今まで人が乗っていたにしては揺れ方が激し過ぎるのです。まるで私が公園に入って来るのを見計らって思い切り手で持って揺らした感じなのです。

それを見た私が驚くのを物陰から見て喜んでいるような気がしたので、全く関心がない素振りで公園を後にしましたが、15分程して公園に戻って来た時にも同じような揺れ方をしていたものですからその日は公園を横切らずに遠回りして帰ることにしました。

コオロギのアトリエ 

374 「カモフラージュ」

夕食を終えて義理の兄の家に届け物をした時の話です。たまたま兄はノートパソコンで何やら検索をしているのですが最近パソコンを始めたばかりなので上手く検索できないようでした。どうもある歌手動画を検索したいらしいのですが何故かその歌手の名前を伏せて私に検索の手順だけを聞くのです。

何度聞いても教えてくれないので「だったらとりあえず誰でも良いから歌手の名前を検索バーに打ち込んでみてよ」と私が言うと「最近の歌手で良いか?」と言うので「構わない」と言うと兄は「三波春夫で良いか?」と聞いてきたのです。

                 カモフラ-s

兄の最近は三波春夫なのだとビックリしていると、何かを察した兄は「南こうせつ」と言い直します。ほとんど意味のない修正に私は笑いをこらえていたのですが、事もあろうに更に被せて来たのです。

「やっぱり南沙織だな…」

こらえ切れずに声を出して笑う私に兄が追い打ちをかけます。

「…南野陽子か?」

とどめを刺された私は年代の古さよりも何故『ミナミ』にこだわらなければならないのかが気になったのですが、すぐに理由はわかりました。カモフラージュだったのです。

最終的に義理の兄が検索しようとしていたのは『北島三郎』でした。

コオロギのアトリエ 

373 「指輪」

永年使っている『物』にはそれなりに愛着があるもので、それが常に身に付けている物だったりすると尚更です。不思議なのは自分の持ち物にはあまり感じないのですが、他人の持ち物に限ってその『物』に対する持ち主の想いや記憶のようなものを感じることがあります。それは自分の想像か妄想だとは思うのですが中にはそうではない事もあるようです。

ある時期、港での夜釣りにハマっていた事があり毎週港に通っていたのですが、ある日釣りを終えて港を出て少し車を走らせた所で道路の左側の歩道に並んだコンクリート製のフラワーポットの縁の上に指輪を見つけます。

                指輪-s

それは車のヘッドライトが反射したからで昼間なら絶対に見逃していたと思います。その指輪は18金で表面に梅の花のデザインが彫り込まれた美しい指輪だったのでツイ持って帰ってしまうのですが、すぐに後悔します。その指輪を触っていると何故か持主らしき若い女性の悲しい感情と別れ話のシーンをリアルにイメージしてしまうのです。

気味が悪いので結局1週間後の釣りの時に元の場所に戻すのですが偶然とは恐ろしいもので、車に乗り込んでエンジンをかけた丁度その時、白い乗用車がフラワーポットの前で停まります。

車から飛び出した女性は「あー良かったーまだあったー」そう言いながら運転席の男性に指輪をはめた手を差し出すのですが、その笑顔の女性は間違いなく私がイメージしたあの女性でした。

コオロギのアトリエ
 

372 「幼子」

30代の頃に保育園の建物に絵を描いたことがあるのですが、3~4歳の幼児がメインの保育園なので出来るだけわかりやすく可愛いアニメのような絵を描いてほしいという依頼でした。それまでにそのような絵は描いた事がなかったので少し戸惑いながら何とか完成させるのですが、制作の途中に園児たちにかけられた言葉にショックを受けます。

「おいちゃんは絵がうまいなぁ…」と言われたのです。この世に生れてまだ3~4年の幼子に絵の技術を褒められると言うことは、その絵は子供たちのハートに届いていないという事です。本来なら絵を見て無邪気にはしゃぐのが本当だと思うのですが、感想を言う余裕があると言う事はその絵は上手くいっていないのです。

                 幼子-s

今回はそのことではなく、その絵の制作中に私を取り囲んだ十数人の園児たちとのやり取りの中で起こったチョット不思議な出来事です。

あまり幼児との接触の経験がないものですから彼らとのコミュニケーションが上手くとれず、会話が成立しないのにイライラして「君たちとは話にならない」と幼子に暴言を吐いたことがあります。すぐに大人気なかったと反省して作業を中断して園児たちに謝るために振り返るのですが、振り返って驚きます。

そこにいた全員が靴を脱いで私をジッと見ているのです。その光景はチョットした恐怖で、何が起こったのかわからない凍りついた時間の中で何とか答えにたどり着きます。園児達は「話にならない」を「裸足にならない?」と聞き間違えたのだと思います。

コオロギのアトリエ 

371「プレーリードッグ」

随分前に従弟のS君の家にお邪魔していた時の話です。居間で雑談をしている最中にS君が「来た、来た」と言いながら突然立ち上がります。どうしたのかと見ていると開け放った縁側のサッシから外を覗きながら私を手招きするので外を覗くとS君の指さす先に何かがいます。

S君が言うには数日前から庭にプレーリードッグが出現するようになり餌付けに成功したらしいのです。プレーリードッグは決まった時間に現れ、餌を食べてしまうとどこかにいなくなるのだそうです。おそらくどこかで飼われていたペットが逃げだして野生化したのだろうと彼は言うのですが、花壇の真ん中で魚肉ソーセージの切れ端を両手で持って後ろ足で直立するその生き物はプレーリードッグにしては少し大き過ぎました。

                        プレーリー-s



普通プレーリードッグの大きさは精々30センチですがその生き物は50センチを優に超えていて、パッと見、小さなトトロかと思う位の大きさなのです。その生き物はその後しばらくS君宅を訪れていたそうですが、ある時からパッタリ姿を現さなくなったそうです。本人は今でもあれはプレーリードッグだと信じて疑いませんが、私は未だにあの大きさには納得がいっていないのです。

コオロギのアトリエ