不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

208 「芝刈り」

今では昔話の中でしかお目にかかることがなくなった『柴刈り』ですが、私が子供の頃は近所のお年寄りは普通に『柴刈り』をしていました。

柴刈りというのは家庭で使う燃料にする為に山の中に落ちている枯れ木や枯れ枝を拾い集めることで、ビジュアル的には昔話の絵本にあるように集めた薪を背中に背負うのが一般的でした。ところが一度だけそうではない人を見たことがあります。

あれは私が5~6歳の頃、よく母親に親戚の家に連れて行かれていたときのことです。その親戚の家には一緒に遊ぶような年頃の子供はいなかったのでいつも一人で近所を探索するのが常だったのですが、ある時、小さな森のような小高い山を発見します。

山には一本の細い道があり、それは頂上まで続いているようでしたので登ってみることにしました。かなり急な坂道でしたが子供の足でも何とか登れるくらいの道を1分も歩かなかったと思います。目の前の道におじいさんとおばあさんが仰向けに寝ているのです。

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2人は頭を坂道の上にしてきれいに並んで寝ていたのですが何故か2人とも薪の束をおなかに乗せていて、死んだように眠っていたのです。子供心にそれを普通ではないと感じたのでしょう、急いで母親にそのことを報告しに戻るのですが母親はまったく相手にしてくれません。

それでも泣きながら訴える私を不憫に思ったのか結局現場まで一緒に来てくれたのですが、何と森がないのです。そこには住宅が建ち並ぶだけで山など何処にもなかったのです。考えてみればその親戚の家は新興住宅の真只中にあり、小さな公園が申し訳程度にあるだけで森や丘などあるはずもなく、そこに山の話しをしても誰も信じるわけがありません。

しかし私の中ではあれは確かに現実だったのです。その証拠におじいさんが被っていた淡い緑色の帽子の色を今でも覚えているのです。

コオロギのアトリエ