209 「金の延べ棒」
もしかすると前に書いた話かもしれませんが、造形の仕事で熊本のテーマパークに一ヶ月ほど滞在したときの話です。偶然、昔一緒に仕事をしていた『首藤くん』と同じ部屋になり楽しい時を過ごしたのですが、お酒好きの首藤くんは仕事が終わると毎晩のようにお酒を飲んでいました。
だいたいビールから始まり焼酎で終わるというパターンなのですが、最終日近くになると何故か金粉入りの日本酒を飲んでいました。金箔の入った日本酒は何度か見たことはあったのですが金粉入りは初めて見ました。
彼はとても無口な男性で、ジョークなどまず口にしないのですが唯一最強の『鉄板ジョーク』を持っていました。ただそのジョークは自ら口にすることはなく、聞きたいときはこちらが上手く誘導してあげなければならないのです。
私「首藤くん、シュトウってどんな字を書くんだっけ?」
首藤くん「はい。酒乱のシュに糖尿病のトウです」
どんなに哀しいことがあってもこのジョークを聞くと元気になってしまいます。そんな首藤くんが最終日の朝、私をトイレに誘うのです。トイレの便器を覗くと何と便器の真ん中に『金の延べ棒』があるではありませんか。驚いて首藤くんを見ると勝ち誇ったような笑みを浮かべながらこう言います。
「自分に出来ることはこんな事くらいですけん…」
彼は円筒形の黄金を私に見せる為に数日前から準備してくれていたのです。持って帰れる物なら持って帰りたかったです。
コオロギのアトリエ