231 「モンスター」
そのアパートのベランダにモンスターが現れたのはある熱い夏の夜のことでした。3階と言うこともあり夏はベランダのサッシは開けっ放しにして網戸の状態のまま寝ていたのですが、ある晩ベランダの方からゴソゴソと言う音が聞こえてきます。
その音の感じからすると大きなネズミかネコか何かそのくらいの大きさの生き物のようでした。嫁もその音に気づいたようですが、様子を見に行くのは必ず私です。玄関に立てかけてあったビニール傘を手に出来るだけ派手な音を立てながら網戸を開けベランダを覗くのですがそれらしい生き物は見当たりません。
気のせいだったのかと部屋に入ろうとしたとき足元で何かが動きました。それは巨大な蜘蛛のような形体をしていて、表面がゴツゴツした青い光沢のある鎧のようなもので覆われていました。大人の男として恥ずかしいくらいの悲鳴を上げながら部屋の中に逃げ込んだものですからそれに驚いた嫁はパニックです。しかも閉めそこなった網戸の隙間からそのモンスターが部屋の中に入ってきたからたまりません。
蛍光灯の下で改めて見るそれは生まれてはじめて見る生き物でした。30センチ近くあるその信じられないくらいグロテスクな生き物の容姿をあえて説明するとしたら『外骨格の青い巨大なタランチュラ』です。
気を失いそうなくらいの恐怖の中で「捕まえてぇ~」と言う信じられないお言葉でほとんど意識はなくなるのですが、せめてもの救いはその生き物の動きが比較的ユックリしているということでした。
つづく
コオロギのアトリエ