310 「無意識」
ある時、無性にオブジェを作りたくなったのは殆ど衝動的で、とりあえずその辺の土で作り始めたそれはその内どんどん規模が大きくなり、結局土の量が足りなくなったので金網を張った木組みの下地の上に土を盛る事になります。
最終的にはその上にコンクリートでコーティングする事になったのですが、大きさ的には高さが2メートル、横幅が3メートル、厚みが60センチ程で左右の端が1メートル程手前に突出した『コ』の字状の壁のようなオブジェに仕上がりました。
所々に空いた数個の大小の穴と上方に角のような突起が3本突き出た抽象的な曲線で構成されたそのオブジェの完成にとりあえずは満足するのですが何かが気になるのです。
しばらくは何が気になっているのかわからなかったのですが、どうもそのオブジェは全くのオリジナルでその時の感情で適当に創ったものであるはずなのになぜか見覚えがあるのです。無意識の内に何処かの誰かの作品の影響を受けることもあるのでおそらくその辺だろうと思っていたのですが、数ヵ月後にそうではなかったことが判明します。
偶然昔の写真を整理していた時に20歳の頃に描いた絵画やデッサンの写真が出てきたのですが、その中の一枚に何とそのオブジェの絵があったのです。メインのデッサンの隅っこに鉛筆で描かれたラクガキのようなものでしたが不思議な事にその形体はそのオブジェそのものだったのです。
結局、完全に忘れていた数十年前に描いたラクガキを無意識に再現してしまったということなのでしょうが、それにしてもそのラクガキはそのオブジェをまるで数十年前の自分が見て描いたとしか思えない位に細部まで良く描けていたのでした。
コオロギのアトリエ