不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

012「消滅」

   突然、目の前のものが消えてしまった経験は誰にも一度や二度はあると思います。今まで使っていたはずの消しゴムがどこにも見当たらないとか、さっきまでそこにあったはずの百円ライターがなくなってしまったとか…。

私は一時期福岡で造形の仕事をしていたのですが、ある日、親しいデザイナーとテーブルを挟んで仕事の打ち合わせをしていた時もこんなことがありました。テーブルの上には図面や写真や色んな物が広げてあったのですが、今までテーブルの上にあったはずの彼のタバコがどこにも見当たらないのです。

テーブルの下からポケットの中から書類の隙間まで探せるところは全て探してみましたが出てきませんでした。不思議なこともあるものだと二人して話している所へ、事務の女の子がお茶を持ってきてくれたのを幸いにある実験を試みました。私なりに消滅のメカニズムにはある法則があるということに気がついていたのです。

「Aちゃん、悪いけどそこのラーク取ってくれないかなぁ」

「タバコですか?」



なぜ自分が取らないといけないのかといった表情をしながら彼女がテーブルに手を伸ばしたその先にタバコが出現したのです。私たちが顔を見合わせて感動するのを見てAちゃんは呆気に取られていましたが、そういう事の様なのです。消滅したのではなく、何らかの原因でそれを確認できなくなっているだけのようです。たぶん、脳内でプチ障害が起こっているのでしょう。

それからというもの消滅が起こるたびに第三者に見つけてもらうのですが、それが結構面白いのです。今度やってみて下さい。ただし、『それを見つけてくれ』と言ってしまっては駄目です。その人にも見つけられなくなる可能性があります。『それとって』と普通にお願いしてみて下さい。その出現の仕方に感動すること請け合いです。


コオロギのアトリエ