不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

152 「観音像」

小さな造形の会社を立ち上げて細々と仕事をこなしていた頃の話です。会社といってもひとりで営業から造形、塗装、運搬、設置、集金をこなすのですから会社というよりはフットワークの良い職人と言った方が正解かもしれません。

仕事を始めた頃はその手の仕事なら何にでも手を出していたのですが何となく神仏関係の仕事だけは敬遠していました。それでもどうしても断れないお寺さんからの依頼で、ある仕事を請けることになるのですが、その仕事というのが事もあろうに「観音像の折れた首をつなぐ」というものだったのです。

なんか怖いでしょ?怖がりの人はこの先は読まないで下さい。

観音像の大きさは50センチと小さなものだったのですが、オリジナルからコピーされたレプリカらしく材質が石膏で出来ていたために折れた首の部分の破損がひどく、作業的には結構大変でした。しかしそこは天才的な技術力で見事に修復するのです。が、出来上がった観音像をお寺に届ける途中にそれは起こります。

             観音-s

工房から車でお寺に向かう途中に左手に川を見ながら走る200メートル程の見通しの良い直線の道路があり、その通りは車の往来も少なく歩道を歩く人も滅多にいないので、いつもならついついスピードを出してしまう所なのですがその日はスピードを出しませんでした。

観音像を乗せているという事もあったのですが、その日に限って左側の歩道を見慣れない小さな子供が歩いたからです。子供との距離は随分離れていたのですが、その子供から目が離せなくなります。ちょっと様子がおかしいのです。子供は向こう向きに歩いているのですが足元がフラフラして今にも倒れそうな足取りなのです。

具合でも悪いのかと思いましたが、子供の事ですからわざとそのような歩き方をしている可能性もあると思い、とりあえずいつもよりスピードを落とし注意しながら子供に近付きます。ところが15メートル位の距離まで近付いたときにその子供が急に立ち止まり、向こう向きで直立したまま動かなくなったのです。

気味が悪かったのですが、やはり子供の意味のない行動だったのだと、とりあえず安心したその時です。何とその子供はその体勢のまま突然道路に飛び出してきたのです。


つづく

コオロギのアトリエ