242 「空」
先日グラフィックデザイナーのSさんの事務所にお邪魔し、彼女が仕事用にストックしてある大量の写真を見せてもらっていた時のことです。
私はSさんの写真のセンスの良さは昔から認めていて、その中でも空を写した写真に心を惹かれついつい見入ってしまったのですが、「最近、空がきれいなのよねぇ…」とSさんが呟くのを聞きながら『この人も気がついているんだな』と思いました。
と言うのは、最近の空は美し過ぎるのです。確かに子供の頃に見ていた空もとても美しかったのですが、あの頃の空の美しさと今の空の美しさはどこか違うのです。それは年齢から来る物事に対する感情的な思い入れによるものなどではなく、ビジュアル的に何かが違うのです。
どこがどう違うのかと言われるとハッキリと『ここが違う』とは言えないのですが、感覚的には『硬い』感じがする美しさなのです。何か優しさが欠けていると言うかフィルターがひとつ足りないと言うか、昔よりも確実に大気は汚れているはずなのに不思議なことにあの頃よりも美しいのです。
それは昆虫や海の生き物の中で毒を持った個体がひと際美しい色彩をしていたりしますが、何故かあの美しさに似ている気がするのです。
コオロギのアトリエ